「何かあったら人事に相談してください」だけで大丈夫?海外赴任者支援の盲点
海外赴任者を送り出す際、人事担当者から「困ったことがあったら、いつでも人事に相談してください」と伝えている企業は多いのではないでしょうか。
赴任前の説明や定期面談、海外赴任規程の整備など、企業として必要な仕組みを用意することは大切です。
しかし、相談窓口を設けていることと、海外赴任者が実際に相談できていることは、同じではありません。
海外赴任者本人が悩みを抱えていても、人事には何も相談していない。定期面談では「特に問題ありません」と答えていたのに、後になって心身の不調や家族の問題が明らかになる。こうした事態は、相談窓口を案内しているだけでは防ぎきれない可能性があります。
海外赴任者支援を考えるうえで重要なのは、相談先を用意することだけでなく、本人が必要なときに安心して相談できる環境を整えることです。
この記事では、海外赴任者が人事に相談しにくい背景と、企業が見落としやすい支援の盲点、そして人事が取り組める改善の方向性について解説します。
なぜ海外赴任者は人事に相談しないのか
人事が相談窓口を案内していても、海外赴任者が自ら相談するとは限りません。その背景には、海外赴任者ならではの事情があります。
仕事への影響や評価を気にしてしまう
海外赴任者は、会社から期待されている役割を担い、現地で成果を上げることを求められています。
そのため、仕事上の悩みや精神的な負担を人事に伝えることで、「海外赴任に適応できていないと思われるのではないか」「評価や今後のキャリアに影響するのではないか」と不安を感じることがあります。
特に、現地法人で責任ある立場に就いている場合、弱音を吐きにくいと感じる人もいるでしょう。
何を相談してよいのかわからない
本人が抱えている問題は、必ずしも明確な形で現れるわけではありません。
仕事への意欲が低下している、以前よりイライラする、眠りが浅い、家族との会話が減った。こうした変化があっても、本人はそれを海外赴任に伴うストレスと結びつけていない場合があります。
悩みが漠然としている段階では、「こんなことで人事に相談してよいのだろうか」とためらい、相談を先延ばしにしてしまうことも考えられます。
人事に相談した後を心配している
相談した内容が上司や現地法人にどこまで共有されるのか。相談したことによって、会社から特別な対応を求められるのではないか。
こうした懸念があると、本人は本音を話しにくくなります。
相談窓口の存在だけでなく、相談内容の取り扱いや情報共有の範囲が明確になっているかどうかも、利用しやすさを左右する重要な要素です。
海外赴任者支援で人事が見落としやすい盲点
「相談できる仕組み」と「相談につながる仕組み」は違う
社内規程に相談先を明記することや、赴任前研修で窓口を案内することは、支援体制の基盤になります。
ただし、窓口の存在を知っていても、本人が相談の必要性を感じなかったり、相談することに抵抗を感じたりすれば、支援にはつながりません。
人事としては、窓口を案内したかどうかだけでなく、本人がその窓口を利用できる状態にあるかという視点も必要です。
例えば、相談先を赴任時に一度伝えるだけでなく、赴任後も定期的に案内する、相談できる内容を具体的に示す、相談した場合の情報管理について説明するといった工夫が考えられます。
定期面談で「問題ありません」と言われれば安心なのか
海外赴任者との定期面談は、本人の状況を把握する貴重な機会です。
しかし、面談で「問題ありません」と回答があったとしても、それだけで本人の状態を十分に把握できたとは限りません。
本人が会社への配慮から悩みを話していない場合もあれば、自分自身の負担をうまく言葉にできない場合もあります。
そのため、形式的な状況確認にとどまらず、仕事の負担、人間関係、睡眠、生活環境、家族の状況などについて、本人が話しやすい形で確認することが重要です。
もちろん、面談ですべての問題を把握しようとする必要はありません。人事が心理的な問題を診断するのではなく、本人の変化に気づき、必要に応じて適切な支援につなげる役割を担うことが大切です。
海外赴任者本人だけを支援対象にしていないか
海外赴任による環境の変化は、本人だけでなく、帯同する配偶者や子どもにも影響を及ぼすことがあります。
配偶者が現地で孤立している、生活環境になじめない、キャリアを中断したことに悩んでいる。家庭内の負担が大きくなれば、赴任者本人の心理的な余裕や仕事にも影響する可能性があります。
しかし、企業の支援制度が赴任者本人の業務や健康管理を中心に設計されていると、家族の悩みが支援の対象として十分に認識されないことがあります。
帯同家族への支援をどこまで行うかは、企業の方針や制度によって異なります。それでも、家族の状況が赴任者本人の生活や仕事に関わることを理解し、必要な相談先につなぐ方法を検討しておくことには意味があります。
人事が見直したい海外赴任者支援のポイント
海外赴任者支援を改善するために、必ずしも大規模な制度変更が必要なわけではありません。まずは、現在の運用を振り返ることから始められます。
相談窓口の案内方法を見直す
赴任前に一度説明するだけでなく、赴任後も必要に応じて相談先を確認できるようにします。どのような悩みを相談できるのか、相談した内容がどのように扱われるのかを明確に伝えることも重要です。
本人の変化に気づく機会をつくる
定期面談を実施している場合は、面談の頻度だけでなく、本人が話しやすい雰囲気になっているか、仕事以外の負担についても必要に応じて話せるかを確認します。
人事だけで抱え込まない仕組みを考える
人事担当者が、海外赴任者の仕事上の問題から家族関係、心理的な悩みまで、すべてを直接対応することには限界があります。
社内の産業保健スタッフや専門職、外部の相談窓口など、内容に応じて相談先を選べる体制を整えることも選択肢です。社内の人事には話しにくい悩みを、外部の相談先であれば話せるケースも考えられます。
相談件数だけで支援体制を評価しない
相談件数が少ないことは、必ずしも問題が少ないことを意味しません。反対に、相談件数が増えた場合も、問題が悪化したと一概にはいえません。相談しやすくなった結果として、これまで表面化していなかった悩みが把握できるようになった可能性もあります。
件数だけで判断せず、相談窓口の認知度や利用のしやすさ、相談後に適切な支援につながっているかなど、複数の観点から振り返ることが大切です。
海外赴任者支援は「相談してください」と伝えることから、その先へ
海外赴任者が安心して働ける環境を整えることは、本人のためだけでなく、企業が海外赴任制度を継続的に運用するうえでも重要な課題です。
海外赴任者が悩みを抱えたとき、必ずしも自ら人事に相談できるとは限りません。仕事への責任感や評価への不安、家族への配慮などから、問題を一人で抱え込んでしまうこともあります。
だからこそ、人事には相談窓口を設けるだけでなく、本人が相談しやすい環境を整え、必要に応じて適切な支援につなげる視点が求められます。
すべての悩みを人事だけで解決する必要はありません。社内で対応できることと、外部の専門的な支援につなぐことを整理し、海外赴任者本人や家族が孤立しない仕組みを考えることが重要です。
まずは、自社の海外赴任者支援について、次の点を振り返ってみてはいかがでしょうか。
- 赴任者は、どのような悩みを誰に相談できるか理解しているか。
- 人事には話しにくい悩みを相談できる選択肢があるか。
- 赴任者本人だけでなく、帯同家族の困りごとにも目を向けられているか。
- 相談があった際、必要な支援につなげる方法が整理されているか。
こうした問いを出発点に、自社に合った支援体制を検討することができます。
海外赴任者支援の仕組みについて、一緒に考えてみませんか
一般社団法人 Vida felizでは、海外赴任者と帯同家族が抱える悩みや不安を相談できる場を提供し、企業の海外赴任者支援をサポートしています。
人事だけでは把握しにくい本人や家族の悩みに、社外の相談先という立場から向き合うことも、支援体制を考えるうえでの選択肢です。
「相談窓口はあるが、実際に活用されているかわからない」「海外赴任者や帯同家族を、どこまで支援すればよいのか整理したい」といった段階でも構いません。
現在の制度や運用を振り返りながら、自社に合った海外赴任者支援のあり方を考えてみませんか。
海外赴任者支援の仕組みについて、一緒に考えてみませんか
海外赴任者の相談窓口はあるものの、実際に活用されているかわからない。帯同家族への支援をどこまで考えるべきか整理したい。そんな企業人事の方も、まずは現在の課題をお聞かせください。

